医・科学
熱中症
熱中症の応急処置 1
熱中症とは
熱中症は、暑い日に激しい運動をしたときになりやすい病態です。
からだは、汗をかいたり、皮膚から熱を放散させることで、体温が上がりすぎないように調節をしています。この調節がうまく働かないと、体に熱がたまって体温が上昇します。ときには死に至ることがあるので、要注意です。
特に我が国は、年々高温多湿になってきており、熱中症が起こりやすくなっています。
剣道は、室内で剣道着、袴、剣道具をつけて行うため、室内スポーツの中ではもっとも熱中症を起こしやすいことが知られています。
指導者は熱中症を未然に防ぐことに留意するとともに、万が一、起こった場合には適切な処置を取ることが求められています。
熱中症の病型(図2)2
熱中症を疑ったら?
まず、意識がしっかりしているか確認してください。
意識の確認には、氏名や日時を質問するのが有効です。このほか、脈拍、体温、呼吸状態、顔色なども忘れずにチェックすることです。もしも血圧計が手元にあれば、血圧も測定してください。
意識がある場合
- 安静:まず涼しいところに運んでください。そして、剣道具をはずし、袴の紐をゆるめ、頭を低くして寝かせます。また、手足をからだの中心に向かってマッサージをするのも有効です。
- 冷却:からだをうちわであおぎ、おでこ、くび、わきの下、足の付け根などを中心にアイスパックを当てて冷やします。
- 水分補給:冷やしたスポーツドリンクまたは経口補水液を十分に補給してください。水だけを大量に補給すると、血液の中の塩分濃度が低下してしまい、熱けいれんの原因となってしまうので、要注意です。
意識がない場合(応答がにぶい、言動がおかしい場合も含む)
- 救急車を呼ぶ:緊急事態ですので、直ちに救急車を呼んでください。遅れると、危険な状態になります。
- 全身の冷却:冷たいタオルを全身にかけると、熱放散を促進できます。タオルがなければ、口に水を含んで全身に吹きかけてもかまいません。さらに、おでこ、くび、わきの下、足の付け根などにアイスパックを当てて冷やしてください。
熱中症はどんなときに起こりやすいか?
- 時期:急に暑くなったときに起こりやすくなります。7~8月が一番多く、午前10~12時がもっとも起こりやすいとされています。
- 環境:湿度が高く、風通しの悪い場合、直射日光が差し込む場合です。
- 年齢:子供や高校生までの若い人に起こりやすいことがわかっています。
- 体調:からだが暑さに慣れておらず、体温調節能力が不十分のときが危険です。過労、睡眠不足、風邪、下痢などの場合には熱中症になりやすいので、指導者の配慮が必要です。また、太っている人は体温調節能力が低い場合があるので、注意が必要です。
熱中症を防ぐためには?
日本体育協会から出ている「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」に「熱中症予防のための運動指針」が出ていますので、図3に示します。
- 「道場の温度と風通しには十分に注意をしてください。
- 急に暑くなったときは、稽古量を少なめから徐々に増やしてください。
- 稽古の前にはコップ1~2杯の水分を摂取してください。
- 稽古は長時間続けず、面をはずして定期的な休息を取ってください。面をはずすことで、からだにたまった熱を逃がすことができます。
- 稽古の合間には十分量の水分(1回に200ml前後を2~3回)を補給してください。水分補給はスポーツドリンクがよいでしょう。
昔は、稽古中に水を飲まないことが美徳とされ、精神の鍛錬につながると考えられてきました。しかし、水分補給ができないまま稽古をすることは危険です。また、水分補給をした方が、かえってパフォーマンスが上がります。
熱中症になったら?
- ただちに涼しいところに運び、剣道具を外して袴のひもをゆるめ、頭を低くして寝かせてください。
- 首の周囲や太ももの付け根などを、氷を包んだタオルやアイスパックなどで冷やしてください。
- 水分補給をスポーツドリンクあるいは経口補水液で行ってください。
- 38度以上の熱があるとき、意識がもうろうとしたり、意識がないときは危険です。「名前、日時、場所が言えるか?」の質問で意識状態がわかります。
- 少しでも意識がおかしいときは、からだを冷やしながら、ただちに救急車で病院に搬送してください。
宮坂 信之(東京医科歯科大学名誉教授)
参考文献
- 「熱中症環境保険マニュアル2018」環境省
- 「熱中症診療ガイドライン2015」日本救急医学会
- スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック 日本スポーツ協会
* 剣道医学救急ハンドブック(2018/12/01発行)の次期改訂版の更新記事となります。
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